ledcannon’s diary

美作古書店

小学生の頃が遥か遠くと感じるようになって数年が経過した。はっきりと思い出せていたはずの過去が段々と遠のいていく。この間まで隣を走っていたはずの過去の幻影ははるか前方を駆けている。

緩やかに変化していると認識していた街並みが、ここ数年で急激に空白になっていく様を見ていると自分が生きてきた世界が消失していくみたいに思えてしまう。

自宅から駆け出して友人の家に向かう曲がり角。あの頃は塀の向こう側なんて見えなかったな、と当時の自分の視点が不意に甦る。

毎日が楽しくて。何の不安もなく。ただただ一日の終わりに明日が来る事を待ち侘びていた少年時代。あれから一万数千回の夜を超えた今は明日が来ることが苦痛と思うようになってしまった。何なら、この夜が永遠に明けずに続けばいいのに、とも思ってしまう次第である。

遥か遠き輝かしい少年時代は、もはやこの草臥れた自分にとっては空想のようなものに成り果てた。ただ、同じ街に住み続けていると何かの拍子にひょっこりとその空想が現実世界に滲み出してきて認識がおかしくなる事があるのだ。

皆、そんなものなのか。それともこれは自分固有の症例なのか。こんな時だけやけに他人が気になってしまう。

あの頃から今までずっと続く交遊もあったり。逆にあの頃に途切れてしまった、取り戻せない物語があったり。夕焼けに切り取られた空を見上げて途切れた過去が今まで地続きだったらという「もし」を想像したりするのだ。

 

 

もし。

もし過去が途切れずに今に繋がっていたら。